こちらでご紹介する「キチンナノファイバー」という物質について、最近では化粧品の分野で製品化が活発になっていますのでご存知の方もおられるかもしれません。
専門家の間では既に10年ほど前から研究が始まり、日本キチン・キトサン学会をはじめ、各学術会議では化粧品に限らず、食品や農業などの分野でも毎年新しく見出された機能性が報告されています。
また、テレビや様々なメディアでもその話題が取り上げられる回数も増えているように注目度の高まっている素材です。
そんな新しい物質「キチンナノファイバー」について、今回はできるだけ詳しく、より分かりやすく解説したいと思います。
1.キチンとキトサンの違い
まず、キチンナノファイバーの詳しい話をする前に、キチンとキトサンの違いを整理しておきたいと思います。
整理しておきたいと思うのは、キチンとキトサンをはっきりと区別して、それぞれが辿ってきた道を知っておいた方が、よりキチンナノファイバーの存在理由が明確になると思うからです。
1-1. キチンは自然界にある天然の物質、キトサンはキチンから化学処理して作られる
カニやエビ、昆虫などの甲殻類、キノコなどに天然物として含まれているのがキチンになります。
つまり、自然界ではほとんどがキチンの状態で存在していて、そのキチンを化学処理することによって作られるのがキトサンということです。
(天然のキトサンも一部にはありますが、一般に広く普及しているのは化学処理して作られたキトサンです)
1-2.キチンをキトサンに作り変える理由
キチンをキトサンに作り変える理由は色々ありますが、その一つに液体などに溶けやすくさせるということがあげられます。
キチンは水や特殊な溶媒以外には溶かすことができませんが、キトサンになると酢酸などの薄い酸に簡単に溶けるという性質を持つようになります。
溶けるようになったことで加工を施しやすくなり、研究用の材料などとして使われるようになります。
1-3.これまでの利用実績はキトサンの方が多い
キチンとキトサンの、これまでの利用実績を比較すると、圧倒的にキトサンの方が多くあります。
なぜそうなったのかというと、キトサンには液体に溶けるという性質があり、そのおかげで研究や応用を発展させる事ができたからです。
例えば、動物に摂取させる水や餌に混ぜたり、どこかに塗ったり、他のものと混ぜ合わせたりするときには、液体に溶けているということが重要な要素になります。
その点でキチンよりも溶かしやすいキトサンの方がより多く利用されるようになったのです。
キチン=利用実績が少ない < キトサン=利用実績が豊富
2.古くて新しい?キチンナノファイバー
冒頭でキチンナノファイバーのことを新しい物質と言いましたが、少し正確ではないかもしれません。
なぜなら、キチンナノファイバーの元原料になる「キチン」自体は大昔から存在していて、キチンナノファイバーは、そのキチンから薬品などを用いるのではなく、物理的な方法だけで作られたものだからです。
ただし、これまでのキチンと大きく違うのは「ナノ化」しているという点です。(ナノ化とはナノサイズまで小さくするということです)
この発想は今までありませんでした。
キチンナノファイバーは、はるか太古より生物生産され続けてきた天然の高分子「キチン」の有効利用に、ようやくスポットライトをあてる新しい物質となりました。
2-1.ゲル状の液体が画期的
これまで利用実績の少なかったキチンがキチンナノファイバーとして生まれ変わることで画期的だったのは、「キチン繊維を水に均等に分散させたゲル状の液体」として得ることが出来たというところにあります。
というのも、キチンは通常の溶媒では溶かすことが出来ないため、キチンの溶液を得ることが困難です。
液体に溶けないということは、加工がしにくいということで、加工しにくいということは、実験や応用に用いることが難しくなるということです。
このため、キチンの研究や応用は遅れてしまいました。
そこで、登場したキチンナノファイバーのゲル状の液体は、従来の溶けないというキチンの欠点を補うことで加工が容易になり、研究者はこれを実験の材料として扱うことができるようになったということです。
2-2.表面積が増えたことも新しいメリット
キチンを細かくほぐすことによって、表面積が増えたことにも多くのメリットがあると考えられています。
表面積が増える事で、これまでよりも少ない量で同等の効果が得られたり、効き目が素早くなることが考えられます。
キトサンナノファイバーと従来のキトサンフレークを比較した実験では、染料の吸着速度が早まり、吸着する量も増えたというデータがあります。
表面積が増えるということは、機能性や資源保護の面でもメリットを得られると期待できます。
3.キチンナノファイバーは極細の食物繊維
キチンナノファイバーは、キチンを極限まで細かくほぐした極細の食物繊維です。
キチンナノファイバーという言葉を分解すると「キチン」と「ナノ」と「ファイバー」に分けられます。
「キチン」は、カニやエビやキノコなどに含まれる成分です。
「ナノ」は、大きさの単位のことになります。
どのような単位なのかというと1nm(ナノメートル)は、1mm(ミリメートル)の百万分の1の大きさで、比較的分かりやすい表現で例えますと、キチンナノファイバー(約10ナノメートル)は髪の毛のおよそ1万分の1の太さということになります。
「ファイバー」は、繊維のことです。
キチンナノファイバーは、キチンを極限まで細かくした食物繊維ということになります。
4.キチンナノファイバーの作り方
キチンナノファイバーおよびキトサンのナノファイバーについて作り方をご紹介します。
4-1.キチンナノファイバーの作り方
キチンナノファイバーはキチンを原料として作られます。
方法としては、石臼式磨砕機、ウォータージェット(高圧噴流水)、高速ミキサー、超音波、エレクトロスピニング(電解紡糸)など他にもあり様々ですが、扱う原料のタイプや用途によって使い分けられています。
ちなみに、弊社で扱っているキチンナノファイバーの製造方式は石臼式磨砕機で、カニ殻から通常の工程を経て得られたキチンに、水と場合によっては酢酸などの酸を少量加えて製造されています。
4-2.キトサンナノファイバー(表面キトサン化キチンナノファイバー)の作り方
これまでキチンからキトサンが作られていたのと同じように、キチンナノファイバーからも化学的な処理を施すことによって、キトサンのナノファイバーを作ることができます。
ナノ化する前にキトサン化するか、ナノ化した後にキトサン化するかといった工程の違いがあるものの、基本的にはキチンナノファイバーと同じような装置を使って作られます。
また、キチンをキトサン化する割合も調整が可能で、用途によって分けて製造されています。
弊社では表面の一部をキトサン化した、表面キトサン化キチンナノファイバーを利用しています。
表面キトサン化キチンナノファイバーは、キトサン特有のプラスに荷電するという特徴を維持しているので、従来のキトサンがもつ様々な効用も引き継いでいます。
また、キチンナノファイバー同様、新しい応用に向けて様々な研究がされています。
5.キチンナノファイバーの効果
キチンナノファイバーの研究が具体的にどのような分野で進んでいるのか紹介したいと思います。
5-1.食品分野
まずは食品分野です。
はじめにお断りしておかなければならないのは、ここで紹介できるのは食品分野の一部の研究のみということになります。
なぜなら、弊社はサプリメントとして製品を販売していることから、法律でその広告になるような研究内容をお伝えすることができないと決められているからです。
5-1-1.製パン性向上の実験
キチンナノファイバーの食品分野の応用として、製パン性の向上についての研究があります。
パンを作る時に、小麦粉にキチンナノファイバーを添加した場合としない場合を比べると、添加した方のパンの膨らみが増したというものです。
この時セルロースナノファイバー(植物から得られるナノファイバー)を添加した場合との比較もしていますが、やはりキチンナノファイバーの方がよく膨らんだということです。
このことから、キチンナノファイバーを使えば小麦粉(強力粉)の量を減らしても同体積のパンを作ることが可能になるため、より低カロリーなパンを製造することができるということです。
5-2.化粧品分野
化粧品分野では皮膚への効果として次のような実験が行われました。
5-2-1.アンチエイジング効果
先天的に毛の無いマウスの皮膚にキチンナノファイバーを塗布すると、8時間という短い間で、上皮や膠原繊維(コラーゲンからなる皮膚の細胞間にある繊維)の密度が高くなったということです。
5-2-1.皮膚保護効果
キチンナノファイバーを塗布することにより、外界からの刺激に対して保護する役割のバリア膜が角質層に形成されることが分かりました。
こちらは、ヒト皮膚細胞を積層した三次元モデルを使った実験で、キチンナノファイバーの塗布は健康な皮膚の状態を長時間にわたって保持させることがわかったということです。
5-2-2.保湿効果
こちらは表面キトサン化キチンナノファイバーでの研究になります。
30~50歳の女性10名を対象にした実験では、表面キトサン化キチンナノファイバーを片手に塗った後、4時間後と8時間後に塗っていない方の手と比較したところ、皮膚の水分含有量が、塗っていない方の手と比べて有意に上昇していたということです。
5-2-3.アトピー性皮膚炎についての実験
アトピー性皮膚炎についても検討されています。
皮膚炎を起こしやすいマウスに対しキチンナノファイバーを塗布して、経過をみると、塗布しなかったものと比較して有意に改善傾向が見られています。
これは、血液検査で炎症に関連する因子の活性が抑えられていることが確認できたことでも、皮膚炎の抑制作用があることがはっきりしたということです。
5-2-4.育毛効果
皮膚に対する実験を行なっていると、実験動物の体毛の増え方にも差がみられたことから、毛髪の育成についても調査したものがあります。
キチンナノファイバー、表面キトサン化キチンナノファイバーおよびミノキシジル(育毛剤)の3種類を剃毛したマウスの背中に塗布して経過を見ました。
すると、発毛が確認できた面積で、表面キトサン化キチンナノファイバーはミノキシジルの約2倍ありました。長さも、面積同様約2倍になったことが確認されています。キチンナノファイバーはミノキシジルに及ばなかったということです。
5-3.医療分野
医療分野では、キチンナノファイバーが登場する前から、キチンでの実用化例が多数ありました。
キチンは生体適合性が高いことから、主に人工皮膚や医療用の縫合糸などに用いられています。また、薬の効き方を調節する徐放剤などでも利用されています。
その他、キチンのオリゴ糖を注射によって投与することで免疫力を上昇させる働きがあることもわかっています。
5-3-1.創傷などの治癒促進効果
キチンナノファイバーでの利用はキチン同様、傷創や火傷などの皮膚疾患に対して有効であることが分かりました。
研究が行われている鳥取大学のそばにある鳥取砂丘で、観光用に飼育されているラクダが脚に負った傷に対しキチンナノファイバーを含んだ軟膏を塗布したところ、回復が早まることを複数の試験で確認しています。
また、故意に皮膚に欠損を作ったマウスに対する実験では次の結果が得られました。
キチン、キトサン、キチンナノファイバーおよび表面キトサン化キチンナノファイバーの4つの成分を塗布し経過をみたところ、8日後、表面キトサン化キチンナノファイバーではほぼ完全に皮膚が再生されていました。
それに対し、キチンナノファイバーでは前者と比較するとやや劣る程度で、キチンとキトサンではわずかであったということです。
5-4農業分野
農業分野では次のような効果が確認されました。
5-4-1.植物病原菌に対する抗菌性
キチンナノファイバーおよび表面キトサン化キチンナノファイバーは植物病原菌に対する抗菌性を発揮することが分かりました。
それぞれのナノファイバーをフィルム状に加工して、その上で植物病原菌であるニホンナシ黒斑病菌、トマト萎凋病菌、かんきつ青カビ病菌などの発芽率を観察したところ、普通のセロハンシートでは発芽率が98.5%だったのに対し、キチン/キトサンナノファイバーでは0.3%にとどまったということです。
5-4-2.植物の免疫系活性化
キチン/キトサンナノファイバーは植物の病気に対する免疫系を活性化して、病害抵抗性を向上することが分かりました。
キチン/キトサンナノファイバーをあらかじめイネの表面に散布しておくと免疫機能が活性化されていもち病に罹りにくくなるということです。
これはトマトやキュウリでも同じような効果が得られたということです。
5-5その他
その他では、キチンナノファイバーの高強度、高弾性、透明性などの特徴を生かした機能性フィルムや、接着強度を増加させる目的で接着剤・塗料などに添加する技術も開発されています。
まとめ
1970年代後半頃より本格化した日本のキチンとキトサンの研究は、その後世界中の研究者によって進められてきました。
その甲斐あって、キチンとキトサンは様々な場面で実用化され、人々の生活向上に役立ってきました。
そして、再び日本の学者らによって研究が始められたキチンナノファイバーの登場は、これまで築き上げてきたキチンとキトサンの実績を引き継ぎ、また更に発展した形で社会に貢献しようとしています。
引き続き、この新素材「キチンナノファイバー」に注目してゆきたいと思います。
参考資料:
- キチン・キトサン研究vol.24No.1キチンナノファイバーが有する多様な生体機能
- キチン・キトサン研究vol.24No1小麦粉生地と製パン性に対するセルロースナノファイバーの影響およびキチンナノファイバーとの比較
- カニの殻が新たな産業を生みだす! 化学別冊
- キチン・キトサンの最新化学技術 技法堂出版
- キチン・キトサン健康読本1 東洋医学舎
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